旅にある日々

異国での生活と、日々の旅。バンコクに9年、ニューデリー3年。今は、12年ぶりに日本。

ナイナピーク(チャイナピーク)

先のタクシーに乗って、もう少し上がる。標高、約2400mだそうだ。

車から自転車を降ろして、車輪をはめる。

少し辺りを乗って、下りと上りでの重心のかけ方とか、ギアチェンジの方法とかを習う。

牛もやってくる。

そしてこのハイキングコースのような山道。

「自転車、担いで上ります。しんどかったら、押して行ってもいいです」

目が点。自転車に乗りに来たのであって、自転車を担いで山道を登りに来たのではないはず。

インドで、日本人に騙されたー、と歩き始めて数分で思った。

とてもではないが、担ぐとフレームが肩に食い込むので、なんとか押して歩いては、休憩をする。友人は適当なところで待ってくれているが、余裕の表情。こちらは必死。なんかそんなに悪いことしたっけと、思わず身に覚えをないことまで反省してしまうくらい、つらい状況。

「2時間くらいですかね」と言われ、無限に思える。

先ほどのナイニタール湖を見下ろす。

しょっちゅう、こうして自転車を置いて休憩(少しでも軽くするためにスタンドはついていない)。

何もしないのも悔しいので、道端の花を写真に収めてみる。

1時間半ほどかかって、ようやく頂上。ナイナピークというのが今の名前だが、旧チャイナピーク。こちらの方がとおりがいいらしい。

山頂の小屋は政府系の施設か何かだろうか。無線機を通した音声が聞こえてくる。

どう見ても峠の茶屋には見えないが、友人曰く「チャイが飲めます」と。

味わい深いおじさんが、薪を燃やした火で沸かしたチャイをいれてくれる。心付けを置いておく。

さあ、いよいよ自転車に乗るぞ。担ぐのでもなく押して歩くのでもなく、乗るのだ。

ここから一気にトレイルを下りる。

けして獣道というわけではない。ちょっと整備されていないハイキングコースというあたりか。

下る感覚とか、泥をはねたり、小さな流れを横切ったり、泥で滑ったり(一度だけ岩で滑って転んだ)、まあ、イメージしていたマウンテンバイクだ、という感じだ。

チャレンジングなところ(急なカーブを曲がる、岩の隙間を見つけてていねいに車輪を滑り込ませる、木の根を越えるなど)は、これはおもしろい人にはおもしろいだろうと思う。こちらは、まだ、おっかなびっくり。風景は心地よい。当然、空気もきれい。

1時間ばかり下って、人家のある場所に出る。雑貨屋でチャイを飲んで、水のボトルを1本買う。

ここからは普通の道路(ロード、と呼ぶ)。上りになるので、苦しい。

きれいな沢があったり。

がさがさと音のする樹上に猿がいたり。

雲の影が緑の上に落ちたり。

友人はすいすい進みつつ、僕は休憩を挟んだり押して歩いたり。

牛もいたり。

きれいな沢があったり。

道端の岩に猿が腰掛けていたり。

お寺があったり。

雄大な景色。

はい、到着。

……。到着である。到着した先は出発したところ。ここから自転車をえいこら押して上がったのだ。苦労して上って、そして元の場所に下りてくる。どこにも行かない。

こういことを、道楽と言わずして何と言おうか。愉快、愉快。

そして、ナイニタール湖まで一気に下りる。下りのロードはスピードが出て、気持ちがよい。ある程度の速度に乗ると、耳の横を抜けていく風がごぉっとうなる。



ここから駅に向かってもよいのだけど、「もうちょっと走って、イタリアンを食べに行きましょう」というわけのわからない誘いに楽しく乗っかって、霧の出始めたロードを上ったり、下ったり。上りはわずかな傾斜でも、相当にキツイ。

ナイニタールから東へ、約14kmの道のり、ボワリを目指す。